『エネマグラ教典』書評

『エネマグラ教典』書評

『エネマグラ教典』書評

今となっては、男性の肛門にエネマグラ=前立腺マッサージ器具を挿入すれば、射精とは違う性的な快感が得られるという知識は多くの者が共有するところとなった。

その知識が普及する先駆けとなり、21世紀の日本男性のオーガズムの在り方に新たなる選択肢を賦与した出版物が、2004年に大田出版から公刊されたクーロン黒沢氏とポッチン下条氏による共著『エネマグラ教典 』である。 

「もともと、エネマグラやドライ・オーガズムという単語すら知らない、迷える子羊を導くために企画された(P328)」本書が存在しなければ、それらの言葉や知識が、一部のマニアのみならず、世間一般にまで広く流通することはなかったのではないかと思われる。

催眠音声を始め、女装や女体化する自己に色情を催す自己女性化愛好症=オートガイネフィリア、体に全く触れることなくアクメに達するエナジーオーガズムなど、ドライオーガズムと親和性の高い性文化を誘引し、男性の快楽に於ける可能性を拡張した功績はあまりにも大きい。

著者の二人はコンピュータやゲームに関するアキバ系の裏情報とアジア諸国の危なくも怪しげな裏事情を中心に「もうひとつの世界」の開拓とその記録を生業とする作家であって、必ずしも性文化を専門としているわけではない。

本書も二人の世界観を反映した、当時の最先端の裏モノ=「エネマグラ」を抱腹絶倒の語り口で面白おかしく体験レポートするサブカル本の一冊であった。

だが、そこで語られる「神に命じられたのとは違う方法(P20)」が、男性のオーガズムに対する価値観を転覆してしまう程の衝撃的なものであったが故に、結果として裏モノの体験レポートという枠組みを軽々と超越し、何年も前に発売されながら現在も読み継がれる偉大なる性典となったのである。

男性は射精してしまうと単発でオーガズムが収束してしまうが、女性は何度でも連続したオーガズム=マルチプルオーガズム=「終わらない快感」を味わうことが出来る。

著者はこの自然の摂理を「こと快感について、男が女より損している(P19)」と不公平感を表明し、女性のマルチプルオーガズムとはどれ程までに気持ちがいいのかと憧憬を抱きつつ、どうにかして男性も女性と同様の「終わらない快感」を味わえないものかと「損」していた分を取り返そうと無理難題を渇望する。

そんな時、著者は「エネマグラ」という聞いたこともない新種のアダルトグッズの噂を耳にするのだ。

その「エネマグラ」とやらを肛門から直腸内に挿入して、腸壁を隔てた向こう側にある前立腺という器官を間接的に刺激すれば、男性も「ドライ・オーガズム」と呼ばれる、女性と同様にアエギ声を上げてヨガリ狂ってしまうほどの快感が得られるらしいという未確認情報を聞き付ける。

最初こそ著者は「ケツの穴に異物を入れて感じるなんて、申し訳ないが変態のすることだと思っていた(P63)」と新種のアダルトグッズの使用を躊躇していたものの、数日後にはエネマグラを通販サイトで購入し、「ドライ・オーガズム」とかいう絶頂感が本当に女性のように連続で起きるのか、果敢にも自らの「ケツの穴」を使って人体実験よろしく検証を試みる。

著者は、エネマグラの存在を初めて知ってからドライオーガズムを体感するまでの実体験を基軸として「終わらない快感」を達成する為の方法論を精密かつ明晰にマニュアル化している。

「実際やってみるとそれほどたやすいことではなかった。挫折あり、苦悩あり、涙あり。人間不信にもなりかけた。(P329)」とエネマグラと悪戦苦闘した結果、「遂に射精とは異なる、もっと全身規模の快感……。これが女のオーガズムなのか!?(P131)」と、著者は「損」していた分を取り戻したかと思えるような「終わらない快感」を実際に体得するのだ。

肛門性愛を「変態」とまで公言していた性的マジョリティと思われる著者が、ドライオーガズムを達成したことは、男性なら誰にでも「終わらない快感」を獲得する可能性があることを教示した。

射精のみが男性のオーガズムであるということは固定観念に過ぎず、肛門性愛が変態であるということは社会通念に過ぎない。時代性や地域性によって、そういったノイズはいつの世にも厳存するにせよ、「終わらない快感」それ自体は可能性として元々そこに存在するのだということが本書によって暴露されたのである。

女性器にしか興味のない、ストレートやノンケと呼ばれる男性からすれば、同性愛者や男色家にとっての肛門性愛は、膣の代用品として下半身に存在する似たような「穴」を借用しているのであろうという無関心から来る推量でしかなかった。

だが、著者がエネマグラと必死に格闘しながらドライオーガズムを達成する様を見るにつけ、ケツの穴は決してマンコの代わりなどではなかったのだと、その錯誤を根底から改めるざるを得なくなる。

その「穴」には前立腺という「終わらない快感」を発生させる装置が埋蔵されており、そこを刺激すれば男性も女性と同様にアエギ声を上げてヨガリ狂ってしまうという機械論を突き付けられたのである。

射精のみが男性のオーガズムだと無邪気に、そして愚直なまでに妄信していた何かが、たった一冊の書物で崩壊してしまったのである。痛快ではないか!

『エネマグラ教典』目次

第1章 ”終わらない快楽”への誘い

  • プロローグ
  • 女っていいよねー
  • 男だって、終わらない快感を味わいたい

第2章 ”ドライ・オーガズム”ってナンデスカ?

  • ドライ・オーガズムとは?
  • おはよう前立腺

コラム

  • 乳首オナニー”チナニー”あれこれ

第3章 これが”エネマグラ”の正体だ!

  • エネマグラとの遭遇
  • エネマグラあれこれ
  • 充実のラインナップ
  • 備えあれば憂い無し。エネマグラ・セッティング

コラム

  • オナニー現場に踏み込まれた!?

第4章 エネマグラ絶賛使用中

  • は、は、はいってますエネマグラ
  • レベル100で神になれ!
  • エネマグラ「ちょっといい話」
  • 国破れて山河あり。エネマグラの後始末

コラム

  • ケツ以外から狙う前立腺

第5章 エネマグラ㊙アップグレード術

  • 前立腺を叩き起こせ!前立腺初期化に挑戦
  • 禁じられた遊び。合法ドラッグでマスターベーション
  • 番外対談:「ゴメオは怖いよ。経験者に聞いてみよう」
  • ケミって底上げ、乗り越しドライ

コラム

  • ドライ・オーガズムへの別の近道──香りグッズ、あれこれ

第6章 ドライ・オーガズム探求の旅

  • エネマグラの総本山への巡礼の旅をする──パインズ代表・S氏インタビュー
  • エネマグラな伝道師たち「まるる氏とエネマグラ小史」
  • エネマグラ風俗体験記。もしもし、前立腺のプロを頼む
  • 作ってみました。自作研究用エネマグラ

コラム

  • 伝道師直伝の秘法でドライ・トレーニング

第7章 性転換者はドライ・オーガズムの夢を見るか?

  • 緊急企画:前立腺と性転換とパタヤとの意外な関連性

コラム

  • 電気風呂で未知の刺激を──(健康ランドでドライ体験?)

コラム

  • 最後の手段・電気手淫

巻末用語辞典

おわりに

著者紹介

アダルトグッズのNLS